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20/08/08 前線、銃後、指導、総力 …… 戦争をめぐる諸相

■今年もはや8月二週目目前。春の内にもう充分お休みをいただいた気もしますが、猛暑到来にマスクの着用、そして何よりとどまるところをしらない新型コロナウイルス感染拡大状況から、予定通り8月9日より17日まで夏季休業させていただくことにしました。
帰郷をあきらめ外出を控え、気が休まることのない夏を送っている方も多いことと存じますが、健やかで穏やかなお休みになりますようにお祈り申し上げます。

沖縄のアメリカ軍基地での新型コロナウイルス感染拡大のニュースと何かしらの関連があるのではないかと思っているのですが、ここ数週間、店の近くのスターズ&ストライプスに向かってヘリコプターがひっきりなしに飛来するようになりました。基地に向けて高度を下げて小店上空を通過していくヘリコプターの爆音を耳にする度に、沖縄のことを思います。戦後75年を経てなお、これが、いや、これ以上のことが沖縄の日常なのかと胸を突かれます。
今年もまた、敗戦記念日が近づいてきました。
今週の1点目は先の戦争がらみの1冊『浙贛(せっかん)作戦』中支派遣祭7379部隊報道班編輯、発行人・名取洋之助、国際報道中華総局による昭和18(1943)年発行の初版。横開きの大判で、写真自体のクオリティが高いのはもちろん、切り抜きやフォトモンタージュ、角版断ち落としなど多彩なテクニックを駆使した写真表現からテキストのレイアウトまで、日本工房らしい完成度の高い仕事です。
巻末に、「わが戦ひの譜」「わが戦いの姿」とだけ印刷された白紙の頁があるのが少々奇異に見えたのですが、『名取洋之助と日本工房 1931-45』図録によれば、「現地の兵士に注文をとって出来上がりを郷土に送るシステム」だったとのこと。なるほど腑に落ちました。
浙贛(せっかん)作戦とは昭和17(1942)年4月、アメリカ軍による名古屋・東京空襲を受け、敵の飛行場となることが見込まれる中国の飛行場を壊滅せよという作戦。この年の4月末から8月にかけて杭州、紹興、寧波を侵攻、衢州を占領しています。
新着品から少し話が逸れますが、この作戦では第二次世界大戦でも悪名高い石井部隊60名が出動、細菌戦を展開したと云われています。同年6~7月浙江省金華付近を中心に、コレラ、チフス、ペスト、赤痢を撒布。極秘作戦であり、細菌戦について知らされていなかった一般の日本軍兵士1万人がコレラ・赤痢・ペストに感染し、1,200人以上の兵士が死亡したと云われます。
細菌戦について詳しくは下記のサイトでご確認下さい。
http://www.oshietegensan.com/war-history/war-history_k/8637/
http://www.matsumoto-toshiko.jp/archives/6557 

この細菌戦やインパール作戦等南方戦線など戦場では自国の兵士の命を軽んじ、都市への空襲拡大や沖縄戦、広島・長崎への原爆投下等々そこまで追い込まれてようやく敗戦を認めた軍人・政治家の市民の生活と生命に対する責任のあまりの軽さ …… 国民の命をどこまでも軽んじた日本の為政者の姿勢は、拡大するコロナ禍にあっても医療の最前線を知る医師の求めに応じず、一方的に国民に犠牲を強いる現政権にまでしっかり受け継がれているように思います。

ついでながら戦争というもののリアルについて。沖縄戦をめぐる下記のブログが多くのことを教えてくれます。
https://battle-of-okinawa.hatenablog.com/entry/2020/03/03/150731?fbclid=IwAR0kQgS6wcY1GXSQGhM-wB6hHRfyZol0ShujPxy-Q2mYUWfP2TPt88GqKs0

■原節子、丸山定男主演映画、と云うより、蒸気機関車=鉄道マニアの間で有名らしい昭和16(1941)年公開映画「指導物語」のためにつくられたと見られる楽曲の楽譜(歌詞・譜面入)3点が今週の2点目。『スメラ民(みたみ)の歌』『スメラ民の歌 大詔奉戴の歌』『スメラ民の歌 わが友よ』の3種で、それぞれ昭和17年9月発行の普及版です。
発行時期が映画上映時期から遅れているので、映画との関係については断言できないところはあるものの、映画「指導物語」の冒頭で歌われるという「スメラ民の歌」1曲は、少なくともこの映画のためにつくられたものと推測します。
http://fuji-san.txt-nifty.com/osusume/2015/11/post-2bd9.html?optimized=0&fbclid=IwAR1IByOm7kpYCPFUAmowAtgaoZlUjrVEyl5mQt1Dod3d9ptfPRNBqoUNMQI

発行は3点とも「スメル音楽研究所」であり、発行者は同研究所の川添紫郎、発売所は西銀座・世界創造社とありますが、作詞・作曲者名については記載なし。
川添紫郎と聞けばピンとくる方も多いと思いますが、またの名を川添浩史。後藤象二郎伯爵の孫で、若くしてパリに遊学、ピアニスト・原智恵子と結婚。第二次世界大戦勃発で帰国してからは "いとこにあたる小島威彦が創設した「スメラ学塾」にかかわり、妻の原智恵子、オペラ歌手の三浦環、パリ時代の友人で建築家の坂倉準三らと" 「クラブシュメール」をつくり、戦後はミュージカル『ヘアー』招聘など興行界で活躍。1960年には麻布にレストラン「キャンティ」を開店、各界の著名人が集まり…という辺りはご存知の通り。
あのキャンティの川添さん、戦前は「国際文化振興会」で嘱託として働きながら、国粋主義団体「スメル学塾」に関わり、フランス留学を経験した芸術家の集まりで"日本文化を先進的なシュメール文化とつながるものとして、その高揚発展を唱えた"「クラブシュメール」のメンバー、しかも「スメル音楽研究所」を主宰…という、何と表現するべきかちょっと分からないがしかしすでに大物感いっぱいです。ちなみにクラブシュメールは昭和15(1940)年、坂倉が開いたばかりの赤坂の事務所の2階におかれ、メンバーには坂倉夫人・ユリ(父は西村伊作)、川添夫人・原智恵子、三浦環、坂倉準三、仲小路彰、小島威彦、深尾重光などが居ました。 

新着品の奥付にある赤坂区檜町の住所はおそらく坂倉の事務所2階にあったという「クラブシュメール」の住所ではないかと思います。
「スメル学塾」と「クラブシュメール」に関わった人物と活動、そしてその"とんでも"っぷり、と途轍なく広がりを見せる人・組織との関係詳細は、何といっても下記のブログにあたっていただくのが何より確かであります。
神保町系オタオタ日記-自称「人間グーグル」
「情報官鈴木庫三とクラブシュメールの謎」(その1)~
https://jyunku.hatenablog.com/entry/20060415/p1
数か月にわたって連載された力作で、「人間グーグル」とおっしゃるのは自称どころか誰が見ても納得できる博覧強記にただただ脱帽いたしました。引用等お赦し下さい。有難うございました。

実は、もう数年前、何かの関係で坂倉準三について調べていた時に「スメラ学塾」が出てきて気になってはいたのですが、それに連なる印刷物=こんな楽譜が手にできるとは思っていませんでした。しかも、原節子の映画とも関係するとは。驚くべきエフェメラ! ではありますが、しかし一体誰がどういう動機で欲しいと思うものなのか…くだくだしい説明に延々時間をかけながら、いまもってさっぱり分かりません。
余談になりますが、コルビュジエのもとで学んだモダニスト・坂倉とスメラ学塾の組合せは、建築が政治と深く結びついているとはいえ、実に不可解。坂倉の義父にあたる西村伊作さんについて云えば、この当時の坂倉の構想(妄想?)について苦々しく思っていたとみられる記述が残されているとのこと。
ナチスと神智学はじめ、どうやら全体主義とオカルトとはとても親和性が高いようで、いまだ学術的に実証された歴史より神話的な歴史を言挙げする方たちが権力中枢とコミットしている今日、あながち過去のことだとばかり云っていられない気がします。

その坂倉準三が展覧会常任理事となり、会場設計を手掛けた『復興アジア レオナルド・ダ・ヴィンチ展』の解説冊子、出品目録、絵葉書袋付8枚が夏季休業前のトリ。展覧会の開催は昭和17(1942)年で上野池之端の産業会館で開催されたもの。
主催者としてクレジットされている「日本世界文化復興会」は「スメル学塾」の立役者・小島威彦や「クラブシュメール」の仲小路彰らの働きかけで結成されたエリート交流クラブ。展覧会では「学塾」にも関係が赤い末次信正海軍大将を会長に、錚々たる政治経済界・軍関係者の名前が並んでおり、つまりこの企画、「スメル学塾」ありきの企画のようです。
それにしても何故アジア復興でダ・ヴィンチなのか? というあたりは解説冊子の随所に、"ダ・ヴィンチの万能=日本の軍事力"による"ダ・ヴィンチが憧れたアジアの回復=アジア復興"という無理のある小理屈が記述されていて非常に奇妙かつ面白くもあるのですが、本日ヨレヨレのためここまでとさせていただきます。夏の朝5時はもう完全に立派な朝です。やれやれ。
みなさまにおかれましてはどうかご無事で よき夏休みをお過ごし下さい!
 

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