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22/01/22 描キ人シラズの「明治風俗小景」(仮) /ハシモト ヒサシと「松岡洋右」?

■例年、今頃は銀座の百貨店の即売会に出店していて、1月はまるまるひと月、息つく間もなく過ぎていったものです。その即売会は昨年に続いて今年も休止。寂しさは拭えぬものの、この間のオミクロン株の感染急拡大を考えると、休止が決まっていて本当に良かったと思います。
小店では、昨年来続けているアポイント制を継続するとともに、店内消毒と定期的な換気など、これまで以上に心掛けつつお客様をお迎えいたしております。
アポイントに加え、不織布マスクの着用や入店時の手指の消毒など、お客様にはご不便をおかいたしますが、いま一度ご協力をお願いし、ご来店をお待ちいたしております。
何卒よろしくお願い申し上げます。

今週の新着品、1点目はタイトルも画工も年記も一切不明の画稿。明治時代の市井風景の肉筆スケッチばかりで構成されていることから、仮に「明治風俗小景」と題しました
縦17cm・幅28cm前後の和紙を75枚プラスアルファ継ぎあわせた総延長20m超の一大絵巻、と云うには少々語弊はあるものの、わざわざ丁寧に巻子に仕立てられています。
筆を使い、墨一色で描かれたスケッチの多くは、世間の片隅、路上に生きる人々を描いたもので、それぞれに添えられた詞書の多くには、貧しい人、薄情な世間、そこに生きる人々の悲哀が語られています。
また、明治中期頃までに描かれたと思われる絵の中には、当時まだ残っていた江戸の風情と、都会の紳士や帰省する若い男子の洋装など、この後、大正時代に花開くモダニズムの萌芽が、違和感なく同居している点も面白いところ。
スケッチの対象となったのは、釜山浦、堀切ノ菖蒲、筑波ノ暮色、利根川河辺、入谷朝顔など自然や名所・行事、書生転寓、品川駅、鉄道工、撒水、大磯(海水浴)など、明治になってよく目にするようになった都市とその周辺での営み、そして、牛乳配達夫、売花翁、売花童、水売り、団扇売り、風鈴売り、秋虫売り、運米車(関西・米を載せた大八車とそれを曳く牛)など、路上を行きかい路上で働く人たちの姿。なかにはコオロギの楽隊を描いた「野末之奏楽」という楽しい絵も。
画像にとったのは右から「パンヤ」「紙屑拾ヒ」「紙製ノ胡蝶」「栄螺壺焼」「猿廻シ」の5図
「猿廻シ」には「舞ヘヨ躍レヨ浮世ノ様ヲ 来レヨ看ラシヨ子猿ノ遊ビ 猿ニ似タル人 人ニ似タル猿 実ニヤ造化ノ猿舞シ」という一文が、「紙製ノ胡蝶」は「人情ハ吉野紙ノ薄キヨリモ薄ク」という詞書で始まり「てふてふの果敢なき夢を手で製り」の句で〆られています。
興味深いのは「パンヤ」に添えられた説明で、警視庁を免職になった役人某が、栄華を極める夢から覚め、「独学力作尊トキヲ知リテ発明シタル商業トナリ」とあります。詰襟の上着に側章入りのズボンなど、確かにそれらしいと云えばそれらしいいで立ちです。太鼓をたたいているのもまたそれらしい。

調べてみると、正岡子規に「パン売の太鼓も鳴らず日の永き」という句があり、さらに、森銑三の『明治東京逸聞史』(明治33年の部)には「暁夢の『辻商人』の中に、パン売りの一項がある。楽隊の服を着け、ブリキ製の大太鼓の中にパンを入れたのを胸に吊るして反(そ)り身になり、調子を取って叩きながら(中略)、面白く売歩く。しかし今はこのパン売りも見なくなった、としてある。パンを大道で売歩く時代は、既にして過ぎようとしていた」と書かれているのを紹介したブログを見つけました。
「伊予歴史文化探訪-伊予三津浜から発信する歴史文化系ブログ」
http://yomodado.blog46.fc2.com/blog-entry-1296.html
先に明治中期頃までに描かれたものと書きましたが、どうやら間違ってはいなかったようです。
ちなみに明治33年は西暦で1900年。120年以上前に描かれた巻子本ですが、シミも傷みもなく状態は良好です。

■市場には時々「謎」が出品されます。例えば今日の1点目も書誌に相当するような情報はひとつもなく、描かれていることから推量しながら調べていくことになるわけですが、こちらはそれより手強い謎。
要は、世界各国の切手蒐集用につくられた比較的よく見る1冊の専用アルバムなのですが、問題は挟み込まれていた1名の名刺サイズのカード
カードは使用済み切手2枚を貼った下に、「I've finished the arrangement of this album on the 30th June,1943. Hisashi Hashimoto」と筆記体で書き込みがあるもの。アルバムの成立と旧蔵者の氏名を示しています。いつも通り一応裏側を確認すると、「御礼 内閣参議 松岡洋右」と印刷されていました。
「内閣参議」とは日中戦争に関する政治方針を諮る目的で近衛文麿が1937(昭和12)年に設立した内閣の諮問機関で、存在したのは1943(昭和18)年まで。
なるほど時期的には矛盾はありません。しかも「御礼」のカードです。旧蔵者と松岡のには何かしら関係があるのではないかと思われます。
さて、問題はハシモト ヒサシです。ですが、いま現在まで情報にたどり着けず。「明治風俗小景(仮)」のようにはいきませんでした…。
カードに書き込まれた欧文の筆跡と、アルバムの見返しに書き込まれている筆跡は同一で、カードとアルバムの旧蔵者はハシモト氏に違いありません。
ハシモト氏について、今後何者かを探るのは困難なことのように思え、残念ながら調べはこれまで。カードとアルバムは別売いたします。

1月23日(月) 21時~ NHK・BS1で「山本五十六と"開戦"」という番組が放映されます。第二次世界大戦の話題になると、いまだに「あの番組、観た?」と聞いたり聞かれたりする「NHKスペシャル 日本海軍400時間の証言」の制作スタッフの方たちの多くが関わっていると仄聞する100分番組です。ご興味ある方は是非! 

 

22/01/15 おまけ と 装飾のデザイン !

■オミクロン株の急拡大でまた見通しがたちにくくなってきました。小店では、引き続きアポイント制で、ご入店いただく人数を調整させていただければと思っております。
また、お客様が重なった場合など、ご入店まで少しお待たせすることなどもあるやも知れません。
ご不便をおかけし大変恐縮に存じますが、引き続きご理解・ご協力を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

なかなか買う気が起きない2022年ですが、これは珍しいのではないかというので、久しぶりに気持ちが動いたのが今週の一点目、20世紀初頭、欧米のメーカーが、セールスプロモーション用の“おまけ”として煙草やお菓子につけていたトレーディングカードとみられる小さな印刷物のコレクションです。昨年還暦を迎えた小店店主が子どものころ、男の子が熱心にあつめていた「仮面ライダーカード」のようなものだと思って下さい。といってももはや分からない方が多そうですが。それはさておき。
今回入荷したのは、「Emblema Corsiente(=コルシカのエンブレム)」と題されたシリーズ約550枚。このうちほぼ8割が欧州各地王侯貴族の紋章(エンブレム)のデザインを用いたものです。何ゆえエンブレム? かは分かりませんが、確かにデザインとしてはかなりしゃれてます。
厚紙をエンブレムにふさわしく変形フォーマットに型抜きしたり(四角形以外のトレーディングカードの例が他に思い出せませんでした…)、金や銀を使ったものが多いなど贅を凝らしつつ、しかし印刷や紙質などにはあくまで素朴な味わいがあるのも、捨てがたい魅力となっています。
紋章以外では偉人・聖人、風景や鳥など。草花や絵皿をモチーフとしたものはエンボス加工が施され、とくに絵皿のシリーズはリアルで、ミニチュアを思わせる出来です。
全点裏面には解説テキストあり。 

1シート36点収納のファイリングシートに入れて販売する予定。
画像はランダムに抜いた36枚+6枚ですが、シートによってはもっと白が強かったり赤が強かったりと多様。どれを選ぶか、いずれにしても1点きりの早いもの勝ちとなります。店頭でご覧いただければ幸いです。
あ! 「コルシカのエンブレム」のネーミングは謎だし、 一体何のおまけだったのか分からないし、と分からないことだらけ。何かご存知の方がいらっしゃいましたらご教示のほどよろしくお願いいたします。

■最近、一次資料がほとんど出てこないので、かわりにせっせと戦前和洋図案ものを買っております。但し、木版やリトグラフ、ポショワールなど、オリジナルであることが入札する条件
画像2点目は昨年末に再入荷、やっと値段をつけ終わり、明日より漸く店頭に出す図案。再入荷といっても前回はかれこれ20年くらい前のことになるでしょうか。入荷のチャンスはやはりそう度々あるものではありません。
タイトルは『Nouvelles Compositions Décoratives』キュビスム時代のフランスのモダン図案集で、ポショワール(ステンシル)の未綴じのプレートをポートフォリオに収めたもの。著者は1920~30年代に建築家、デザインナー、グラフィックアーティストとしてフランスで活躍したセルジュ・グラッキー(Serge Gladky)。とくにキュビスム様式の抽象的デザインで成果を残した人で、この作品集は彼の代表作とされています。
入荷したのはシリーズ1とシリーズ2の2冊分で、1925年~30年前後の発行
シリーズ1は反復する抽象表現で構成、シリーズ2は動物や鳥、魚などをモチーフに大胆にデザイン化した作品集となっています。
入荷した時点でプレートに欠けがあったためバラ売りで。イメージサイズがほぼA4と額装するにも扱いやすいサイズです。

昨年読んだもののなかで、一番びっくりした記事がこれ。去年のことかと思ったら2012年のことでした。
「時を止める「タイムホール」生成に成功」
「40ピコ秒(1兆分の40秒)の間、時を止める」ことができたという記事。
ちいさなちいさなちいさな……どこまでの小さなこの一歩が、しかしいつか、大きな一歩へとつながっていくんだろうなと思います。科学は面白い。
https://wired.jp/2012/01/06/%E6%99%82%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%82%8B%E3%80%8C%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%80%8D%E7%94%9F%E6%88%90%E3%81%AB%E6%88%90%E5%8A%9F/?fbclid=IwAR2ObdbhzEz_mERXc6PNWRXnwvQKZvX_xWvWE3A20aFew94XDRPnA_KbGwU
 

 

22/01/07 2022年もよろしくお願い申し上げます!

■まだ ぎりぎり松の内ということで 先ずは新年のご挨拶を申し上げます。

あけましておめでとうございます
2022年もお引き立てのほど 何卒よろしくお願い申し上げます


コロナ禍下でのこととはなりましたが、昨年はお陰様で店主は還暦を、日月堂は25周年を迎えることができました。
これも偏に 歩みが遅くとり得の少ない小店と気長にお付き合い下さいましたみなさまのお陰によるものと、改めて心より御礼申し上げる次第です。
26年目に入った2022年、新年初売りは明日1月8日(土)12時よりとさせていただきます。
来週より火・木・土曜日のそれぞれ12時より19時で営業いたします。
オミクロン株感染の急拡大もあり、当面は引き続きアポイント制とさせていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解・ご協力を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

お知らせが遅れて申し訳ございません。未だに時々お問合せをいただいております「銀座 古書の市」ですが、2022年1月も開催見送りとなっております
また、催事に代わる試みとして昨年実施した「古書目録福袋」について、今年は小店は参加を見送りました。昨年より参加店舗数は少し減っておりますが、有志による目録発行を予定しておりますので、ご希望の方は親しい古書店にお問い合せしてみて下さい。
2009年「銀座 古書の市」初参加以来、2021の「目録福袋」まで、毎年年末年始は即売会や目録発送等準備に時間を割いてきたので、今年のお正月は十数年ぶりに仕事に追われず過ごすことができました。
何もしなくて良いとなると、人間(なんて拡大解釈していいのかどうかはさておき)何もしないで過ごせるもので、会計資料を整えること以外、実に何ごともないお正月でした。
人間ぼおーっとしていても朝日は上り、夕日は落ちて一日なんてあっと云う間に過ぎていきます。無為な時間を過ごすのは苦痛でも何でもないばかりか、なかなか心地よいものであることを痛感。還暦を機に、仕事のペースを落としていくための好機となったように思います。
が。しかあっし!
お正月の分はきっとどこかで帳尻を合わせることになっているんだろうなという黒い予感でいっぱいの2022年初売り前日であります。 


■画像1点目はお正月に合わせた小店入り口平台の陳列。壁に飾ったドローイングは小店でお求めいただいた局紙を支持体に、朱赤の漆で描いた「Taupe D.Motoike」のデザイナー・本池大介さんの作品。開いた状態で置いてある大きなファイルはキモノの図案の原寸大設計図集。
響き合うクラフツマンシップを店頭でご覧下さい!
それにしても、日月堂の店内はどうしてこうもおめでたいのか ……

画像2点目は、何故か売り難く、手元に残していた紙もののなかからピックアップした年賀状。今年は売ります。全て槇本楠郎宛て
画像左2枚は長谷川時雨主宰・女人芸術社(赤坂檜町3)名で出されたもの。1935・36年がそれぞれ1通で、宛名面は「女人芸術社」名となっているものの、すでに雑誌『女人芸術』が廃刊になっていたこの当時、表側に刷られた名義は「輝ク会」であり「女人連盟」となっています。
右側一番上のヨコ使いの1枚は「メリーさんのひつじ」「ジングル・ベル」「ロンドン橋」の訳詞などで知られる作詞家・高田三九三(さくぞう)からのもので、「お正月」(「子供のうた」より)の詩が使われています。
下段左側の縦使いの1枚は“ドーワザツシ「夢の国」社”から。童話雑誌だという『夢の国』も、年賀状に標記されている東京高輪南町の“「夢の国」社”も詳細は不明ですが、年賀状のデザインのクオリティはなかなかです。
下段右端、薄桃色のは高田三九三からのもので、こちらは自著『子供のうた』を自主出版した「シャボン玉社」名義
あとまわしになってしまいましたが、槇本楠郎はプロレタリア児童文学の主導者のひとりで童話作家、詩人、評論家として戦前に活躍した人。何度も病に倒れた槇本の最盛期・1936~1937年の文学的交流の断片を物語る歴史のカケラたちです。

■2022年は、昨年出せずじまいだった自店目録を一度出せればと思っております。
26年目の日月堂を、また1年、どうかよろしくお願いいたします。

 

 

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